再度の挑戦、定義温泉と船形山縦走 後編


前回の「再度の挑戦、定義温泉と船形山縦走 前編」からの続き。

 さて、ふたたび船形山へ登る。昨年(参照)は頂上から嵐のなかを大倉川の谷沿いに駆け下って見物どころではなかったが、今日は快晴の下を峰通りの船形林道を登るのだ。温泉を出て湯川を渡り、本峰より下りてくる船形林道の尾根にかかる。初め船形連峰の後白髪(うしろしらひげ)山(1423メートル)の凸峰に登るのだが、これが急坂で樹林も多く、休み休み登っても約三時間、とても苦しい登りだった。これを登りきると急に視界が開けて展望のよい極楽の尾根歩きとなる。仙台の松島がたえず眼下に望まれた。尾根上は高山植物が地を覆い、静寂な山の気とあいまって天上の楽園を現出する。ところどころに残雪があり、あたりの山々がその妍を競っている。さらに蛇ヶ岳にいたれば本峰の円頂は残雪を輝かせてますます近く、御所神社の社殿も望見できる。ひとしきり楽園を歩いているうちに山頂に着く。温泉(転記者注 定義温泉)から歩いて約五時間、それは楽しさに満ち満ちたもので短いぐらいだった。

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 山頂は細かい砂礫のなだらかな円頂だった。展望は驚きの一語につきる。神社に参拝した後、その見晴らしを楽しむ。第一に目につくのは、西方に巨大な山容を広げる月山、その下に葉山がある。南方に巨大な蔵王山があり、その手前に面白山(おもしろやま)がある。北方の栗駒山と焼石岳、遠く北西に鳥海山がひときわ高く直立している。東方には太平洋の白波の上に松島が箱庭のように美しい。仙台の市街は眼下にあり、西方はるか下方に山形の市街が見える。まさに一望千里、東北中央部の見晴らしは無限だった。

 ゆっくり展望を楽しんで昼すぎに下山する。下山路は数本あるが昨年の嵐でよく見られなかった観音寺川の谷を下る柳沢林道に道をとって、東根温泉へ出ることにした。山頂より主尾根を下って楠峰を経て、仙台駕籠(遠望すると四角い駕籠のように見える山)の下を通り、栗畑(下界から見ると栗の畑のように見える山)より観音寺川の谷へ下る。ここまでは景色はいいが、この先は観音寺川源流の深い谷となる。観音寺川はなかなか大きく、両側の山は高く谷は深い。しかし初めは谷幅広く両側の山が比較的なだらかに傾斜しているから深さのわりには明るい谷だ。道は谷の左側にあり、主として雑草と灌木のなかで展望はきかないが、谷間の景観はよい。尾根上に最上駕籠、柴倉山、黒伏山の断崖が高く高く望見できる。途中に登山小屋と営林署の官舎などあるが、粗末だし人もいないので一休みするのも億劫だ。

 小屋を通りすぎてどんどん下って行くと、やがて谷は狭まり、川中に黒滝を見る。黒滝をすぎると山はしだいに開けて谷は終る。間木野の村に出て大きな観音寺の村落に達する。ここで関山街道と一緒になる。ここから奥羽線東根駅までバスもあるが、歩いても一時間たらずだ。定義温泉より約30キロ、深い山のなかで人っ子ひとり会わなかった。この秘境が旅を完了して兄はとても喜んでくれたし、帰りは東根温泉で一泊して、翌日、東京に帰った。徴用のことはすっかり忘れての旅だったが、家へ着いた翌日に令書が来て、もう自由な旅ともお別れになった。

 〈 草思社発行 長谷川末夫著 「汽車が好き、山は友だち」より抜粋 〉

(転記 太田)
  
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