入笠山ハイキング


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昭和12年6月6日、夜行日帰り、末夫さんの入笠山ハイキング記録である。
入笠山はスズランの群生で知られる山。
当時も同様であったことが本文で分かるが、あいにく天気は雨だったようだ。
私もかつて二度ほど入笠山に登り、可憐なスズランの群生を見たことがある。

元原稿の内容には不明な点があるが、今回もいつも通り、ほぼそのまま転記して進めることにする。
末夫さんにしてみれば、
「そこはそうじゃないんだ」
とクレームも頂戴しそうだが、今となっては確認のしようがない。
毎回、頻繁に登場するフレーズ、「実に素晴しい」の形容も健在で、すでにお約束の観がある。


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入笠山は南アルプスの最北端に位する長楕円形の尾根を張った一大高原で東方に八ヶ岳と対して聳えている1900余米の山で有る。
此の山には鈴ランが非常に多く、一名、鈴ラン岳と云われている。
六月中旬より下旬にかけて、山一面に鈴ランが咲き誇って美しい。

新宿を前夜の終列車で出発すると、山麓の富士見へは早朝六時頃には着くだろう。
入笠山へ登るには他にも二、三あるが、信州往還を約四粁程行った神戸ノ部落より登って、他の登山口へ下った方が良い様で有る。
神戸へは駅よりバスが有るが、歩いても大した事はない。
神戸部落より道は往還と別れて左へと入る。
神社の傍を通って段々になった水田の中の道をしばらく登って行くと、やがて松林へと入るが、これを通ると道は緩やかな草原状の谷合いを上る様になる。
背後には八ヶ岳から立科の連峰が非常に美しい。
途中は主として明るい草原や樹林で、観音の碑を過ぎ、万年清水をすぎて更に登って行くと、急に目界広けて美しい高原に出る。
此れを、俗に鐘打平と云う。
此の辺に来ると今迄見えなかった入笠山が、高原の中にぽつんと立っているのが見える。
此の高原は実に素晴しい所で、白樺の疎林の間にスズランやつつじが密生していて実に美しい。

道は更に此の高原を進むが、途中で大平よりの道と合する。
此の辺は所々に水場が有って、キャンプをするには絶好な所で有る。
道はやがて左に入笠山、右に1890米の峯の鞍部に到る。
此こに入笠牧場の柵が有って、可愛らしい牧馬の群を見る事が出来る。
道はこれより今迄の道と別れて、左へ柵沿いに姫笹の密生した小路を上ると、約20分で入笠山の山頂に着く事が出来る。

頂上は岩石がゴロゴロして一本の樹木もないから、眺望は実に素晴しい。
第一に南アルプスの全容を望み、中央、北のアルプスが手に取る如くだ。
更に前方には大八ヶ岳連峰と円頂の立科山が聳え、やゝ低く霧ヶ峰有り、奥秩父の最高主脈、又、手に取る如く、足下には富士見高原を始め、諏訪湖、天竜川を俯瞰して実に素晴しい限りで有る。
下山路は村界の尾根に沿って下る道と、沢入川に沿って下る道が有る。
前者は緩やかな道では有るが、迂回するから道程が長く、後者は沢沿いで急な道では有るが、前者に比してその道程は余程近い。
時間に余裕が有れば前者の道を行くのもよいだろう。

今此処では後者の道に付いて説明しよう。
頂上より入笠山牧場の有る斜面とは反対側の斜面を下るので有る。
道は白樺や落葉松の林の中を下って行き、途中で小黒川へ到る道と別れて左へ折れ、一寸上ると道は非常な羊腸たる急坂を谷合いへと下る。
下るにつれて次第に雑木林帯となり、足下に沢入川の流声を聞く様になる。
道はやがて沢に下り、これを搦んでどんどん下って行く。
此の下りは可成り長く、相当な下りで一寸閉口するが、此の急坂がいく分楽になる頃、右方より来た大きな道と一緒になる。
此の道は先刻の尾根を迂回する道で、此の分岐点の所に「天然記念物かもしか」と書いた大きな標柱が有る。
道は此れより緩やかに下って行き、川と別れて松林を通り、此れをすぎるとすぐ松目の部落に入る。
これより原ノ茶屋をへて往路の信州往還に出でれば、駅迄は約1粁半で達する。


(附)
此のハイキングコースは誰にも出来る簡単なもので、所要時間六時間と見れば充分で有る。
もし足に自信が有れば、更に入笠山より尾根沿いに釜無山へ登るがよい。
此の二つの山岳縦走は、健脚者向きとして実に素晴しいで有ろう。




例によって、改行や句読点、誤字脱字なども、読みやすいよう、また、原文の雰囲気を壊さぬように心掛け、手を入れるのは最小限にとどめた。(太田)



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