栗駒山縦走 鬼首火山群へ 1


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 この旅行記はO氏の努力に依るところが多く感謝に耐えない。
 ここまで読んでみて是非とも須川温泉に行ってみたいと思ったのだが、確か夏休みの家族旅行で連れていってもらったことがあったことを思い出した。しかし子供だった私は何にも覚えていない。末夫さんにしてみれば情けないことなのだろうがとにかくこの自筆の原稿を読んで栗駒山と須川温泉に行くべしと思った。

 右の写真は末夫さんが旅のはじめに見たであろう現在(早春)の厳美渓。

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さて、元の原稿は16枚もあり、読みやすく画像を加工したりトリミングをしたものの、おそらく読んでいただける方は少ないと予想するので、分割して載せることにする。
なお、最下段には本になった文章を添える。


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 七月下旬、私はかねて地図の上で憧れていた、そのころまだ秘境だった東北の栗駒山と鬼首火山と仙台の船形山へ久恋の想いを果たすために出かけた。気がかりだった徴用令書は、一週間ぐらいなら来ないだろうと役所でいわれての出発だった。三つの山は近くに集合していて続けて行けた。私は初めに栗駒山に登り、鬼首、船形山と縦走する予定を立てた。

 上野駅を夜行で発ち、翌朝、一関駅から瑞山行きのバスに乗る。バスは広々とした磐井川の谷間を栗駒山めざして進む。途中、五串には磐井川の名勝厳美渓がある。バス停に近く、十分もあれば天工(てんぐ)橋上よりその全容が見られる。

 栗駒山は南部地方の名山で、山頂にある須川温泉は夏期には保養に行く者が多く、瑞山はその中継地で多くの休み茶屋や古風な宿が立ち並び、強力や駄馬の便もある。健脚者は瑞山から歩いて行くのだが、女道と男道の二手にわかれる。女道は右へと磐井川沿いに谷を巡り、途中、真湯温泉に一泊して須川温泉に行く。男道は尾根通しに山の上を行くもので、直接、須川温泉に出る。足の達者な人は男道を選ぶ。男道は途中の景色がよい。女道は暗い谷のなかで途中の展望はあまりよくない。むろん私は男道を選んだ。

 道は瑞山の村を出ると、初めは細い井戸沢に沿って登る。やがて横根金山の事務所があり、ここから金山まで空中索道が通じている。道は索道を潜り、さらに沢沿いに樹林のなかを登って行く。約二時間、苦しい登りが続いた。やがて樹林を抜けると明快な草原となる。横根岳の尾根を越えるあたり、栗駒の全容が絵に描いたような美しさだ。道は東桂沢の谷へ下り、急坂をS字状に登ると、ほどなく本コース唯一の中小屋の休憩所に着く。蕎麦を食べて元気をつける。休憩所からまた急坂が続く。原始林のなかを進み、ただ一気に登るだけ。原始林は尽き、眼前の山を登ると、そこは下谷地で、下谷地からは見晴らしのきく高原尾根となる。展望の美しさは満点である。

 やがてそれまで高く聳えていた笊森山のすぐ下を辿り、ふたたびくねくねとした草の斜面を登って栗駒本峰より延びた尾根の上に辿りつくと、崇高で美しい栗駒本山の姿があらわれる。本山はまだ遠いが、すぐ目の上に見える。ここから急に明るい高山帯となり、這松や石楠花が咲き乱れ、その間に可憐な高山の花が艶を競っている。見下ろす谷底には純白の残雪が輝き、凄味のある美しさをのぞかせていた。ここから尾根を急激に下り、磐井川の源流に出る。途中に男沼と女沼という名の小さな池がお花畑のなかにある。この淵をさらに下ると磐井川源流の三途川となり、その沢を渡る。小さいが荒々しい沢だ。このあたりはすでに須川温泉の領域で、亜硫酸ガスが鼻をつく。やがて名残原という草原をすぎ、露出した岩石の間(はざま)を下って行くと、蒸気がもうもうと立ちこめるなかに忽然と須川温泉があらわれる。

 須川温泉は海抜千五百メートルの高燥の地にあり、宿は粗末なバラック建てで十数棟固まって建っていた。ここには管理事務所ができていて、泊まる者はみな事務所に申し込む。食糧、寝具持参の自炊者が多く、自炊道具以外はすべて事務所で有料で貸してくれる(一泊八十銭、寝具一組三十銭、寝巻き一枚五銭、食事一食五十銭)。

 建物はアパートになっていて、一部屋ずつ貸してくれる。きわめて粗末な建てつけで震災直後のバラックを思わせた。温泉は各所より熱湯が奔出していて、それらが一つにまとまって大きな湯川を作っている。ほうぼうからもうもうと湯気が立ち上り、湯は強酸性泉で呼吸器や胃腸病に特効があるという。温泉場の近くには噴気孔があって、その上に筵を敷き、毛布をかけて裸で寝ると、全身が蒸されて病気の人には治癒効果があるといわれ、自炊客の多くはそうして日がなのんびりと寝ているのだった。この蒸気の吸入が結核の治療にはいいようだ。兄をここで療養させたら、あるいは病気が治るのではないかと思った。この温泉には東北帝大の研究所があり、一般の人も診てくれるという。私は一風呂浴びた後、このめずらしい山上風景を見て歩いた。

 < 草思社発行 長谷川末夫著 「汽車が好き、山は友だち」より抜粋 >


今回はここまでで終わらせますが、続く次回以降もかなり長くなる予定。

※ 転記 太田


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