再訪 浅間山登山


画像一年前の昭和七年七月に登って以来の、末夫さんの浅間山登山である。
三月にはマグニチュード8,1の三陸地方大地震があり、三千人以上の犠牲者を出した大災害があったが、著書である「汽車が好き、山は友だち」(参照 1)(参照 2)でも触れていないので、おそらく情報が不足していたのであろうと想像する。
もっとも、登山とともに汽車旅行が好きな末夫さんは、同年に開通した丹那トンネルの貫通にも触れていないから、無理のない話か。
今回は再訪ということもあって、記述は簡単に済ませている。
今でこそ、浅間山へは車で簡単にアプローチ可能だが、この時代は国鉄の小諸駅から歩き始めていること、そして頂上まで登ることがまだ許されていた事実に注目したい。
昭和八年、東京からならば、夜行日帰りは当たり前の山だった。
当日は「雨」とある。
コースタイムの記載がないのは残念だが、浅間山登山の魅力は充分に伝わって来る。


画像


浅間山は信州と上州との間に聳ゆる二千五百余米の高峰で、那須火山脈中の一大活火山で、本邦火山中の雄偉なるものである。
山は三重式の円錐形火山で、南は追分方面に、北は吾妻方面に於いて美しい裾野を展開している。
登山路は各方面に有るが、信越線小諸を主とし、沓掛へ下るのを最とする。

道は主として緩かであるが、距離が長い。
然し九合目の附近より御釜への登りは非常に急で、焼石累々たる中を上るのである。
頂上火口の周囲は約十八丁。
時々噴煙に巻かれて非常に苦しい。

火口の内部は、噴煙で明瞭には詳らないけれども、煙の晴間より窺えば、其の中心地点を除いた周囲が一寸見える。
火口の内壁は凄愴を極め、思わず身の寒さを感ぜしめるであろう。
山頂よりの眺望は眞に廣闊豪壮で、周囲の山は目下に集り、八ヶ岳、白根等の雄峯聳え、遠く日本アルプスを望む等、四境絶佳である。

現在の火口は御釜と呼び、最も最近の噴出である。
前掛山は最近の火口壁で、御釜との間に無限の谷が有る。
黒斑山は最も古い火口壁で、未だに赤土色の偉大なる火口壁を存している。

湯の平は黒斑山と前掛山との合に有る火口原で、二千米を超ゆる一大高原である。
夏になれば一面鈴蘭が群生して、一大花園を呈する。
又、天狗の露路は高山植物の一大宝庫で、各種の高山植物が咲き乱れている。
其れ等の花期は七月中旬頃で、八月に入っては最早遅い。
此の湯の平のすぐ下に火山館や峯の小屋などがある。




当日は雨であったにもかかわらず、日本アルプスの眺望を賛美しているのはご愛嬌だが、独立峰であるために、四囲の眺めは、末夫さんの表現を拝借すれば、確かに一大眺望ではある。
百名山のひとつであっても、現在は頂上への立ち入りは禁止されているし、そのために登頂を断念する人も多いことだろう。
私が浅間山へ登ったのは、もう数十年も前で、後はもっぱら周辺道路からその雄姿を眺め、キノコや小さな果実を摘み、温泉に浸かるだけになってしまった。
今では、浅間から小諸に戻れば、懐古園や千曲川畔で半日を遊び過ごし、中棚温泉辺りで湯に体を沈めて、藤村の詩を口ずさむだけだ。(太田)


 





        小諸なる古城のほとり


    小諸なる古城のほとり
    雲白く遊子悲しむ
    緑なす繁蔞は萌えず
    若草も藉くによしなし
    しろがねの衾の岡辺
    日に溶けて淡雪流る

    あたゝかき光はあれど
    野に満つる香も知らず
    浅くのみ春は霞みて
    麦の色はつかに靑し
    旅人の群はいくつか
    畠中の道を急ぎぬ

    暮れ行けば浅間も見えず
    歌哀し佐久の草笛
    千曲川いざよふ波の
    岸近き宿にのぼりつ
    濁り酒濁れる飲みて
    草枕しばし慰む



        千曲川旅情のうた


    昨日またかくてありけり
    今日もまたかくてありなむ
    この命なにを齷齪
    明日をのみ思ひわづらふ

    いくたびか栄枯の夢の
    消え残る谷に下りて
    河波のいざよふ見れば
    砂まじり水巻き帰る

    嗚呼古城なにをか語り
    岸の波なにをか答ふ
    過し世を静かに思へ
    百年もきのふのごとし

    千曲川柳霞みて
    春浅く水流れたり
    たゞひとり岩をめぐりて
    この岸に愁を繋ぐ




ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント