吾妻山群縦走


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今回は昭和十一年六月の記録である。
この年は2.26事件や、直前には阿部定事件もあったのだが、末夫さんは淡々と山行記録を綴っているだけだ。
毎度、同じようなガイド調の文章が続くばかりなので、生原稿の転記はせず、著書から抜粋してみることにする。



   山形・福島の火山群、東吾妻山縦走


 吾妻山は山形・福島二県にまたがる一大火山群で、最高峰は西吾妻山の海抜二〇二四メートルである。全山縦走は二日を要するが、その東半を一日縦走してみた。六月、上野を夜行で出発、福島乗り換えで奥羽本線板谷駅に下車、五色温泉にいたる。ここから急登となり、やがてスキー場の草原地帯に出て緩やかに登って行く。途中、小さな沢を数ヵ所渡る。行く手の家形山(一八八〇メートル)、一切経山(一九四九メートル)がすばらしい。四度目の小沢を渡ったところに青木小屋がある。小屋は数軒あるが、一つは宮様専用で一般人は使えない。ここからさらに高原の原始林が点在するなかを登って行くと、右手に家形スキー小屋があり、家形山もすぐ目の上だ。

 スキー小屋をすぎると一切経山はすぐ上で、その足下に五色沼がある。山と沼との取り合わせが実にみごとで絵に描いたように美しい。道は沼の縁を半周して山に登る。大して苦しい登りではない。この山は東吾妻の高峰で、山頂は広く、全山焼け石に覆われている。展望は山形県側に朝日岳、飯豊、蔵王、福島側に安達太良、磐梯等を遠望し、間近には吾妻連峰の全容を見る。足下に福島盆地と阿武隈川と阿武隈山脈が波頭のごとく波打っている。

 下山は吾妻小富士との鞍部を下る。ここも広々とした一面の焼け石地帯で、人気もなく、苦海浄土を思わせるような荒涼としたところだ。一切経山の左側はいまだに噴気さかんで白い煙を噴き上げている。吾妻小富士はすぐ目の前にあり、十五分もあれば頂上に登れる。頂きに立つと福島市街は眼下に広がっている。この鞍部から北方へと焼け石のなかをさらに下る。危険な個所はないが、灰色の焼け石原は生気のまったくない鬼気迫る壮絶なところだ。これを下りきると草木があらわれ、やがて微温湯(ぬるゆ)温泉に出る。茅葺と油障子の嵌った粗末な小屋があり、自炊宿になっていた。そこから福島駅へ歩いて約三時間、途中からバスを利用して二時間弱かかる。平凡な高原を下って行くのだが、振り返ると吾妻の山々が懐かしく見えた。

 < 草思社発行 長谷川末夫著 「汽車が好き、山は友だち」より抜粋 >


ベルリンでオリンピックが開催され、日独防共協定が締結された昭和十一年だった。(太田)


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