浅間山 湯ノ平と黒斑山登攀


先月に反省したばかりなのに、気がつけば今月の更新が滞っていることに気付いた。
さすがにこれはまずい。
ということで、更新できなかった理由は多々あるのだが、言い訳はせずに、また末夫さんの原稿の転記をする。


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   浅間山 湯ノ平と黒斑山登攀


昭和11年6月11日(前夜発)
晴(時々くもり)

浅間 黒斑山は第一期に於ける浅間噴火口の残阯で、剣が峰と共に其の内壁は烈しい断崖絶壁をなしている最高峰2400余米で有る。
湯の平は此の黒斑山第一外輪山と、前掛山第二外輪山との間に出来た高燥なる高原で、海抜2000米に達している。
此の湯の平を探り、左に聳ゆる黒斑山の登攀は非常に興味有るもので、浅間の本山へ登る事に対して、決して勝るとも劣らぬもので有る。
此れに登るには信越線小諸駅より浅間登山道に沿って行くので有る。
先ず東京を前夜出発して小諸に朝4時頃に着くのがよい。

駅より駅前の広い道を進み、国道に出て右折し、少し行くと浅間登山道の道標に達する。
此れよりは街を出外れて緩に伸びた浅間の溶岩流の上を、ゴロゴロ岩を踏みしめて上るので有る。
此の道は実につまらない歩きにくい道で、相当閉口せしめられる。
やがて道は今迄の広漠たる台地より美しい赤松の木を潜る様になる。
此の松林が又とても長いもので、行けども行けどもつきないのにはいやになってしまう。
それでもついには此れもつきて、その出た所に往時の浅間の活動を物語るにふさわしい七尋石の頭が有る。
此れより一寸右へ折れて再び左へ進むと、一寸した小屋が有る。
此處から道の左手は雑草地で、右手は仝様な赤松林で有る。
左手草地をすかして前面に黒斑山、高峯、三峰等の高峯を仰ぐことが出来る。
途中で左へ枝路を派出して、再び林の中を進む。
更に左へ二回目の枝路と分れて尚も森林帯を進むと、すぐ右手にあたって蛇堀川の流声を聞く様になる。
此れより道は蛇堀川の左岸を沿って行き、暫くして道が突当ると、そこに浅間館と云ふ旅館が有る。
此れより右へずーっと曲って蛇堀川を渡り、再び上ること漸し右手に洋風の浅岳ホテルが有る。(夏期のみ番人在住)
道は更に上るが、再び川を渡る道は此處で二分し、右へ川沿ひに行けば不動の滝をへて途中で再び合する。
然し道は悪いから川沿ひに行かず左へ上がり、一ノ鳥居を潜っていよいよ長坂の上りとなるので有る。
この辺から黒斑山と牙山との割れ目へ道の上って行く様子がうかがわれる。
此の上りが相当に苦しい。
又附近も高山帯となって来る。
前面には牙山の奇妙な立岩が大牙の如くに見える。
滝見台を過ぎて再び急登漸し、ようやく第一外輪山の中へ入るので有る。
此處まで来るとがぜん風景一変して、右には牙山の絶壁を見上げ、左には黒斑山の凄惨なる継崖を見、地面には熊笹生茂り、高原特有の落葉松が針の様な枝を出して居り、実に明朗快活な境地となる。
これよりすぐ道は峯の小屋へ達する。
黒斑山と湯の平を探るには、更にこれより一寸上に有る火山を根據とした方がよい。
峯の小屋のすぐ後ろには地獄谷が有って亜硫酸瓦斯を噴出している。
火山館は湯ノ平台地のすぐ下で有る。
湯ノ平へは火山館よりほんの一寸上ると、目前に広々とした草原となって現れる。
七月頃に来ればスズランが満開して美しい。
湯ノ平を探るには浅間登山路によらず、自分の思ふまゝに歩いて見ることで有る。
原の中には道はないけれども、見透しがきくからどこへ行っても迷ふ心配はない。
右手には大浅間の黒色の円形を望み、左には眞赤な黒斑の火口を望む。
其の間の平原は約一里にも及び、其の中には美しい高山植物が咲き乱れている。
其の状、とても口などで形容の完全を期することは出来ない。
只単にその高原に寝ころんでいるだけでも、其の価値は千金に勝るもので有ろう。

黒斑山へは再び火山館へ逆り、蛇堀川を渡って前面に聳ゆる草の生へている急斜面を上るので有る。
登路は別に無いから頂上目差して上る他はない。
此の道は全くの急斜面でほとんど垂直に等しく、以前は崖で有ったものが長い間に草が生えてこうなったのだろう。
然し右手の方は未だ眞赤な継崖で、身をよせつけることが出来ない。
とに角、充分に注意を要する。
最高点は右側に聳ゆる二千四百余米の地点で、そこへは火口尾根へ取付いてから更に尾根を上らねばならない。
黒斑山の一方は実に猛烈なる原生林で、其の原生林は火口のすぐ際迄迫って来ているから、尾根を沿って行くことは出来ないから、原生林を潜らねばならない。
然しこの黒斑山は左から右へと其の尾根縦走は、実にゴーソー雄大なるもので有ろう。
頂きよりの眺望は言語に絶し、只目を見はるばかりで有る。
前面に偉大なるグレイトマン浅間を望み、浅間は前掛山と本山とから二分して見え、本山よりは噴煙天に冲し、浅間の右には剣ヶ峯低く従い、背後には小諸町より八ヶ岳、立科、奥秩父の最高主脈を望む。
籠ノ登山、湯ノ丸山等高原状に拡り、日本アルプスの雲表に屹立するを望む。
下山は比較的容易で、火山館迄約30分を要する。
火山館よりは小諸駅迄、約2時間半で有る。



以上が昭和十一年六月の浅間山登山の記録だが、驚くのは火口近くに、その名も「火山館」という施設があったことだ。
当時は火山活動も活発ではなく、入山規制もなかったのだろう。
自然災害への認識が今よりも甘かったにも関わらず、登る人も少なかったようだ。
この記録が11日。
数日置いた14日にも、末夫さんはまた浅間山を訪れることになる。

年末で多忙を極め、次回は「来年もよろしく」となるか、それとも「あけおめ」になるかは分かりませんが、なるべく更新するように努力します。(太田)



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