八幡平登山


 前回の「蒸ノ湯温泉」からの続き。


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 朝は早く起きて湯治客を手伝って、近くの竹藪へ筍をとりに行く。手伝ったお礼だといって朝飯と昼飯用にと大きな握り飯を作ってくれた。宿泊料は素泊まり一人十三銭と聞いて、あまりの安さに吃驚した。外も内も健康的な硫黄の湯気の匂いがたちこめ、実に心地よく、いつまでも滞在したかったが、後ろ髪を引かれる思いで朝七時に出発して、目の上の八幡平頂上(一六一四メートル)へと向かった。約二時間、目も覚めるような高山植物の咲き乱れる斜面を緩やかに登って頂上に立つ。
 このあたりの各所に天工の妙をつくした池があり、それが風光を引き立てている。頂きよりの大展望は、第一に岩手山がひときわ高く、秋田駒ケ岳も呼べば答えんばかりの距離にある。四囲の概況は昨日と同じだ。

< 草思社発行 長谷川末夫著 「汽車が好き、山は友だち」より抜粋 >


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 昭和12年当時の原稿を以下に転記する。


八幡平へは蒸ノ湯温泉の背後より登るので有る。
頂上迄約二時間を要する。
蒸ノ湯は八幡平登山口の五合目で、七合目を過ぎる辺迄、可成りの急坂を登らねばならない。
七合目の附近からは道も緩になる。
はじめは岳樺や栂の森林帯で有るが、七合目の附近より次第に青森トド松の森林となる。
八合目は美しい熊笹の高原で、前方に八幡平の頂上を望み、背後に焼山から森吉山方面を望んで、実に素晴しい景色で有る。
又、道の両側に小さな池が有り、左を南部沼と云ひ、「ぬまはりい」や「水ばしょう」が生育し、右の秋田沼には「水がしは」が生育している。
実にいつまでもあきない景色で有る。
此處で道は右に八幡平の頂上を通らないで、藤七温泉に行く道と、左の沼に下る道とを分岐し、其の中央を更に緩に上って行く。
九合目をすぎると頂上はもうすぐで、見晴台の手摺が見える。
八幡平の樹氷は有名なもので有るだけに、途中の青森トド松の樹林は実に素晴しい。
雪量にたわみ、強風に曲った枝は自然の美しさを具え、盆栽に趣味を持つ人ならば一寸離れられない所で有ろう。
八幡平の頂上は周囲に青森トド松の樹林が有るので、視野を拡げるために土を高く盛って周囲に手摺を廻らして見晴し台が出来ている。
頂上よりの眺望は実に言語に絶し、岩手側に向って岩手山、三角形の峯頭を雲上に突出せしめ、其の背後に早池峰山有り。
北上山系低くたれ、右すれば八幡平の峯續きに畚岳剣岨、森より秋田駒ヶ岳有り。
左すれば八甲田連峯より十和田方面の山岳、又、七時雨山、橋庭岳等近く聳え、秋田側には森吉山をはじめ出羽山系の山々重畳として聳え、実に目のとゞく所一望千里に達するかと思われる程で有る。
目下には緩な起伏の広大な高原。
八幡平の全容を望む高原有り、池有り沼有り森林有り、実に東北山岳の持つ偉大なるミリョクで有ろう。
蟇沼と八幡沼はこゝから五分も下ればよい。
二つの沼は列んでいる。
八幡沼は蟇沼より低い位置に在り、面積もずっと広く、水は実に美しい。
附近は素敵な高原で、「いはかゝみ」「がんこうらん」「し(ママ)めしゃくなげ」「はくさんちどり」「しなざくら」等のあらゆる高山植物密生して、其れに配するに天然の林相を具えた原生林有りで、実に天界の楽園もかくやと思わしむる様である。



 次回、「八幡平から藤七温泉へ」に続く。(太田)



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