鳩ノ湯まで


 前回の、「玉川林道をへて八幡平へ」からの続き。


画像

 翌日は密林を潜って玉川を進む。ちょうどこのあたりから森林鉄道の出来上がった路盤にレールを敷き始めていて、多くの土工が仕事に励んでいた。彼らは全国から狩り集められて来た囚人だそうだから用心して行くようにと、宿で注意された。道はこの路盤の上を通っているので土方たちのあいだを歩いて通って行かねばならなかった。妹連れだったので、途中、囚人たちにからかわれ、恐くて道を歩けず、川のなかを進んだ。玉川は川幅は広いが浅く、歩くには不自由しなかった。向こう岸に沿って歩くのだが、囚人たちは小石を拾って投げるので、ずいぶん恐ろしい思いをした。途中に鳩ノ湯温泉があり、そこへ逃げこもうと思ったが、藁屋根があるだけで温泉に人はいなかった。
< 草思社発行 長谷川末夫著 「汽車が好き、山は友だち」より抜粋 >


 使ってはいけない表現もあるが、お許し願いたい。
 以下に、昭和12年当時の文章を載せる。
 囚人にからかわれたことなど、一切記載がない。


玉川に一夜を明したならば、翌日の蒸ノ湯迄のコースは可成りの強行だから、朝早く出発した方がよい。
玉川から岩ノ目の附近迄は森林鉄道の道が出来ているから、此の道を行くがよい。
岩ノ目(道は岩ノ目の對岸を通るので、直接部落は通らない)からはいよいよ昔よりの剣岨な林道を行かねばならない。
岩ノ目を過ぎて少し来た所で道は二分し、一方は右へ釣橋を渡っているこの道は岩ノ目や宝仙台、鳩ノ湯へ到る道で有る。
鹿湯へは更に左へ左岸に沿って行くので有る。
道は全くの密林で覆はれ、地面には水ばしょうをはじめ混生植物が密生して、関東地方では一寸味はえない仙境で有る。
玉川部落より約三時間程も来ると、突然道の左手の草叢の中に一軒の荒廃した小屋を発見する。
これが新湯で有る。
往時の華かさは全く見る事は出来ない。
此の對岸に鳩ノ湯が有るが、森林で見えない。
新湯を過ぎて更に進むと、暫くして後ろの方に木の隙間より鳩ノ湯の淋しそうな茅葺の家屋が見える。
玉川部落から新湯迄は可成りの時間を要するが、森林からは約一時間程で渋黒川と玉川川との合流点に達し、ここで渋黒川を渡って五十曲りの嶮に差しかかるので有る。
此處で玉川川とも別れるので有るが、この玉川川は渋黒川の毒水が流れているので、魚は少しも居ないが、実に美しい水で有る。
又、途中の渓谷も実に壮大な美しいもので、特に玉川部落迄の森林鉄道の附近なぞは、実に言語に絶する程の美しい渓谷美を持っているので、決して飽きる旅ではない。
玉川よりは激しい密林のために、川を余り見る事が出来なくなるのは残念で有る。



画像


 この日の目的地は蒸ノ湯だが、次回は途中の「玉川温泉まで」、旧鹿ノ湯とする。

  
 ※ アップした地図が見にくいので、関心のある方は保存の上、拡大して見て頂いて構いません。(太田)





ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント