陸前浜街道ハイキング (第一回 牛久迄)


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浜街道は東京千住より出て、土浦水戸平を経て太平洋岸に沿って仙台に入る陸羽街道とともに昔の要路で、一名水戸街道とも云った。此の道は途中に大小の河川や湖沼が有り、且つ丘陵帯やら海浜を行くので、途中の風景は可成り良い。今街道に点在する多くの名所古蹟を探りつゝ此の道を歩いて見よう。


から始まる今回の徒歩旅行の、上にアップした原稿は、相変わらず細かい文字の羅列ですこぶる読みにくい。
当ブログを楽しみにしていてくれる知人から、
「せめて原稿の概要でも記してくれないと、せっかくこのサイトを訪ねたのにほとんど無意味だった残念さと、貴重な戦前の記録を活用しない歯がゆさだけが残る。愚かなことだ」
と痛烈に批判された。
それは至極もっともなことで、今回は少し時間をかけて、何とか原稿を判読して転載しようと思う。
「長谷川末夫氏の記録を誰かの目に留めさせることを期待するなら、もっと真剣に取り組め」
とまで言われた。
言われた通り、真摯に反省しよう。
本音をいえば忙しくてそんな余裕はないのだが、こちらにも意地があるし、ブログを開設した初心に戻る必要も痛感した。
全体の構想からすれば、当ブログはまだ五分の一も進んでいないのだ。
PCの「メモ帳」に毎日少しずつ書き足して保存を繰り返し、それでも作業は数日間を要する。
やっと形になったので、それをコピーして体裁を整え、やっとエントリーまで漕ぎ付けた。
また枕が長くなったが、それでは始めよう。

前回のエントリー、「足利~東京間を十九時間で歩く」の続きとして読んで頂きたい。


 私はこの徒歩旅行ですっかり自信をつけ、このすぐ後の六月二十七日、東京の千住から水戸までの徒歩旅行を行った。このときは人手不足で入ってきた新入りの役所の同僚も一緒だった。千住を朝五時に出発したのだが、これは完全に失敗だった。同僚は歩くのが遅かったうえ、途中の小金の宿場の葭簀張りの掛け茶屋(そのころはまだ一部に昔の宿場の形態が残っていた)で、ほとんど食べてしまった親子丼のなかに銀蠅の入っているのを見つけてから急に腹ぐあいがおかしいといいだし、我孫子で旅を打ち切って先に帰ってしまった。
< 草思社発行 長谷川末夫著 「汽車が好き、山は友だち」より抜粋 >


上の文章は本に収められたものだ。
それに比して、当時の原稿はそんなエピソードを一切排除し、ひたすらガイドブック的な記載に徹している。
想像するに、旅行案内として後の出版を想定していたのではないか。
途中の名所旧跡を細かく記し、(江戸時代に大流行した道中記がそうだった)なおかつ利便性を意識しつつ旅の魅力を喚起している。
車社会の今なら簡単に回れるだろうが、逆に内容が詳細すぎて、若干のわずらわしささえ覚える。
それでも当時としては画期的なアイデアで、歴史や名所好きでのんびり志向の御仁ならば、かなり興味深く読んでくれるはずの文章だ。


千住を朝六時頃出発するとよい。道は新川を渡って左へ陸羽街道と別れてすぐ右へ折れ、木橋に沿って行く。常磐線東武線のガードを潜り、左に小菅の刑務所を見つゝ、暫して道は川の堤と別れて左へ直角に曲がると小菅町だ。綾瀬川を渡り町を出外れると一面の田畑の中に出る。これを過ぎると亀有の町へ入る。細長い町の中で中川を渡るともう新宿町だ。


この調子で徒歩旅行は続く。
おそらく今でも文章通りに歩くことが可能で、末夫さんの旅を追体験できる仕組みになっている。
小菅の町から外れると一面の田畑だったり、亀有は細長い町だったことが判る。
現在では想像もつかない光景だ。
それでもイメージはつかめるので、のどかな散歩を脳内で楽しめる。
続いて中川の桜を紹介し、金町の帝釈天に触れ、江戸川を越える。


道は松戸町で不舗装の道となるから街道を馳駆するトラックやバスの吹上げる煙を浴びなければならない。


東京を出ると道はまだ舗装されていないことが判る。
大型車が行き交う国道の交通量はどの程度だったのだろう。
「不舗装」とは砂利道なのか、それとも雨が降ればぬかるんで土がえぐれるような道だったかは不明。
ただ確実なことは、信号もほとんど無く、キャブオーバーの大型車が土埃を大量に撒き上げながら疾走する光景は浮かぶ。
そして常磐線の踏切を越し、しばらくは線路伝いの道を行く。


此の辺から道は丘陵帯となり都会風な人家は失せて急に田舎らしい風景となる。然し馬橋迄は未だ上り下りのない平坦な道だ。馬橋には街道の左手に万満寺と云ふ寺がある。此の寺の仁王像は運慶作と云われ国宝である。馬橋を出るといよいよ丘陵帯へと入り急に上り下りの坂道となる。此の辺の田は米の早く出来るので有名な所だ。小金町へ入ったら平賀の本土寺を見るがよい。寺は町より約十分で達する。日蓮宗の巨刹で有名な日蓮の高弟、日朗、日像、日輪三聖人の出生地で、境内には其の三聖人及母の墓が有るから一寸訪ねて見るがよい。


「訪ねて見るがよい」といわれても、末夫さん本人は訪ねていない気配が濃厚だ。
また、末夫さんの宗旨は日蓮宗ではない。
この辺りが、名所旧跡を網羅しようとする意図の表れなのだろう。
案内はまだまだ続く。


小金町の付近は昔時小金原と云われた所で、平将門の古戦場で有る。柏町を出ると道は踏切をこして線路の左手に移る。此の辺から手賀沼が近い。途中で左へ関東三弁天の布勢弁天に行く道が有るが約三粁程有り可成り時間を要するから止した方がよいだろう。


「止した方がよいだろう」って、なら書かなきゃいいのに、などと考えてはいけない。
オプションと捉えれば、役に立つこともある。


道は再び踏切をこして直ぐ我孫子の町へ入る。こゝには県立公園手賀沼が有る。沼は土地の隆起によって出来た。海跡湖で周囲は丘陵で○○○○(四字判読不能)で風景がよい。又湖畔松林の丘上に子ノ神の祠が有る。町より十分、子ノ神は昔各国の国分寺に安置し有りたる薬師如来十二神將の内の一つにして行基の御作と傳えられている。然るに其の後国分寺が度々の○○(二字判読不能)に遭って以来、十二神將は各地に奉壐せられたもので此の子ノ神もその一つで有る。境内は実に静かで手賀沼を望むによい所だ。是非立寄って見るとよい。


「訪ねて見るがよい」とか「立寄って見るとよい」などの記載があれば、そこは末夫さんが確実に訪れた場所と断定して良いだろう。
それでも戦前のことである。
いま訪ねても、当時を偲ぶことは難しいのではないか。
現在の手賀沼はここ数十年、水質汚染の代名詞のようにいわれている。

我孫子を出て成田への道を分け、末夫さんは利根川と対面する。


遠くに筑波が美しい頭を出して見える。利根川は大きな雄大な河だが、こゝで見ると川巾が非常に広く豪壮雄大だ。又大利根橋も実に美しい橋で鉄骨造りの近代的形態を堂々と横たえている。河を越すとすぐ取手町に着く。途中柴崎の東源寺には天然記念物の榧の大木が有る。街道からすぐだから一寸寄って見るがよい。(中略) もうこゝは茨城県で有る。町には平将門の建立した東禪寺が有る。こゝから相馬町迄は丘陵と離れるが実に平凡でつまらない道だ。相馬には見るべき名刹もない。


何を根拠に「つまらない」や「見るべき名刹もない」と断定したのか判らないが、相馬の土地にかなり苛立ってる様子なので、道すがら不愉快なことでもあったのだろうか。
相馬とはおそらく現在の藤代だと思われる。
藤代在住の方には末夫さんに代わってお詫びします。
(6号線藤代バイパスを走ると、途中に「小浮気」という名のY字の分岐がある。どうしてこんな名前にしたの?)
末夫さんは小貝川を渡り、竜ヶ崎への道を分けてなおも進む。
途中、簡単に金竜寺や女化稲荷(参照1)(参照2)に触れ、やがて牛久沼の畔を通過して今回の旅は終わる。
以下は結びの文である。


此の道も今迄は東京の近郊と云った感じで有ったが、これからはいよいよ風景も佳境に入って来る。


期待を持たせる結びである。
タイトルに第一回 と謳っているので、当然こちらも、「次は牛久から先を歩くのだな」と思ってしまう。
ところがどっこい、次回はまた千住からスタート、それも末夫さんは自転車に乗っちゃうのである。
最後に「付記」がある。


此の旅は夏は止した方がよい。初春の頃か晩秋がよい。途中余りゆっくり名所を見ていると牛久迄は一寸無理だ。然し街道だけを歩くなら土浦迄は行けるだろう。


ご丁寧にどうも。
やはり末夫さんはひたすら遠くまで歩くことを念頭に置いているようだ。
もたもた寄り道しないで、とっとと先を急げ、と言いたいのだろう。
一方、本ではいたって正直にこの時の感想を書いている。
我孫子で同僚に帰られてからの話である。


 一人残された私は何か気勢をそがれた思いで牛久まで歩いたが、そこに着いたのが夕方の七時すぎだった。上野駅を七時に出た青森行の急行が三十分もしないのに街道わきの土手の上を疾風のごとく駆け抜けるのを見て、水戸まではまだまだ遠いし、暗く淋しい道を思うと、歩くのがとても心もとなくなってきた。これからの長い夜道のことを考えると急に歩くのが嫌になり、私も牛久で打ち切った。千住から牛久まで約十一里二十丁(四六キロ)、十四時間もかかった徒歩旅行だった。
< 草思社発行 長谷川末夫著 「汽車が好き、山は友だち」より抜粋 >


裃を着けたようなガイドブック的記述から五十年、やっと末夫さんの本音が聞けた。
もっとも下のグラフを見れば、前回とは違って時間がかかり過ぎていることが判る。(太田)



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